女子マンガの手帖

女子マンガ研究家・小田真琴のブログです。主に素晴らしいマンガを褒め称えます。

あけましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願いします。

 私事ではありますが、ここ2年ほどは慣れない育児に日々疲労困憊しておりまして、日中は本業(書籍編集)もあるものですから、夜になるともはや副業の原稿を書く気力もなく、こちらのお仕事はやや抑えめにしていたのですね。読書量も減ってましたし。しかしさすがにそろそろ育児も軌道に乗ってまいりまして、精神的な余裕もできてきましたので、今年はこちらのお仕事も頑張りたいと思っております。なのでお仕事ください>各社。

 新年一発目のお仕事は「ダ・ヴィンチ」2018年2月号の「ずっと読みたいあの人のマンガ」特集です。

ddnavi.com

 特集を総括する文章を書いております。ご担当のKさんがこちらでご紹介してくれていますね。

ddnavi.com

 先生方のインタビューはほんとに読み応えがあります。池辺先生がテレビ好きというのは意外なようでもあり、腑に落ちるようでもあり……。そういえばオンエアはされませんでしたが、「マツコの知らない世界」の収録中、マツコさんが「若いころの私にはテレビに救われていた時期があった」というようなことをおっしゃっていたのを思い出しました。

 さて、1月6日はエピファニ(公現祭)です。私はまったくクリスチャンではないのですが、フランス菓子を愛するものとして、毎年この日にはガレット・デ・ロワをいただいております。今年は最近お気に入りのパイ専門店「M.Santa」のものにしました。

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 こちらのお店、学芸大のパティスリー「ジュンウジタ」の姉妹店なのですが、パイ専門店を標榜するだけはあって、パイ生地がとてもおいしいのです。スペシャリテのアップルパイとミートパイはともに絶品。薄手で上品な生地は、しかし全粒粉の風味が薫り高く、全体としては軽めの食べ心地ながら、非常な満足感を与えてくれます。アップルパイのりんごの下処理も素晴らしいんですよね。シナモンを使わずに、りんごそのものの甘さで勝負しています。ミートパイの牛肉はシェフのご実家の農場のものを使用。肉汁がしみたパイ生地のおいしさたるやですよ。お近くにお越しの際はぜひ。

www.pie-santa.com

『マツコの知らない世界』に出ました。

 ご覧くださった方もたくさんいらっしゃると思うのですが、12月12日オンエアの『マツコの知らない世界』に出ました。いやあ、疲れた。

natalie.mu

 すごくないですかこの絵面。

 遡ること3か月前、ディレクターの方から頂戴したメールがすべての始まりでありました。そこから何度もメールや電話での遣り取りを重ね、何度かお会いして、正式に出演が決まったのが10月末。11月の中旬に収録し、そして遂に先日のオンエアへと至った次第です。長かった。

 正直なところテレビにはあまり良い印象を抱いておりませんでした。これまで出演させていただいた「Rの法則」(Eテレ)や鹿児島テレビの方はとても仕事熱心な人たちで気持ちよくやらせていただいたのですが、こういう仕事をしておりますとほかにもいろいろあるわけですよ。例えば某情報番組。取材依頼のメールにギャラの有無・金額が明示されていなかったので、「ギャランティの金額を教えていただけますでしょうか?」とメールした途端に、

いきなりこちらから連絡をしておいて誠に恐縮なのですが、
このたびの小田様への取材のご相談は
取り下げさせていただきたいと思います。

だって(原文ママ)。あまりにも即レスで笑いました。

 あるいはとある地方局。取材依頼のメールに、「おっしゃっているのはこんな内容でしょうか?」と確認のためにいくつかの例を出したところ、その後音沙汰がなくなり、そういやあれはどうなったのだろうとふと番組のサイトを見てみたら、私がメールした内容を許可なく使って番組を作っていやがりました。しかも微妙に間違えて。

 ほかにもググればすぐにわかるようなことをわざわざお尋ねになってくる御仁は高頻度で現れます。どうせノーギャラなので、一度面倒くさくなって「これ以上は答えられません」と告げたところ、「じゃあ、詳しい方を紹介してください」なんておっしゃる猛者もいらっしゃいましたね。ああ、怖ろしい。

 閑話休題。思い出し怒りがつい…。

 「マツコの知らない世界」のスタッフのみなさんは本当に丁寧なお仕事をしてくださいました。オファーからオンエアまでに3か月以上の時間をかけていることが、ひとつの証左となりましょう。私の意向はできる限り汲み取っていただきましたし、無理矢理に仕立てたストーリーに私を押し込もうとせず、だけどゴールデンのテレビ番組として最低限はおもしろくなるような構成を考えてくださったんです。おかげでこちらも伸び伸びと、楽しくお仕事させていただきました。この場を借りて感謝を申し上げたく思います。

 オンエア後の評判もよく、一安心しております。前半の宝石の人が異常に面白かったので(笑)、非常におトクな回だったのではないでしょうか。

 そしてなによりも紹介した本がちゃんと売れてくれたことが私には嬉しいのです。こちらは「トリプルWIN」という取次大手・日販のデータですが、

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オンエア翌日の13日の売上が盛大に跳ねております(グラフの数字は消しています。あと翌々日の14日のデータはこの時点では集計途中なので少なく出ております)。あれ、トリプルWINのデータって出していいんだっけ。まあいいや。まずかった言ってください>関係各位。

 この仕事の最大の目的はやはり本を売ることですので、この結果はとても嬉しいものです。そしてやはりテレビの影響力は未だ大きいのだなと思い知りました。特にこの番組だったからというのもあるでしょうね。

 私としてもただのボランティア精神でやっているわけではなく、ギャランティもしっかり頂戴しておりますし、なにしろ私が好きなマンガが売れてくれれば、私が好きな系統のマンガが増えるでしょうから、単に我欲がモチベーションであるわけです。なのであまり過剰に感謝しないでください>関係各位。

 しかしまあ滅多にあることでもないので、今回はボーナスタイムということでしょう。私なんぞが出て良いものだろうかとも悩みましたが結果オーライです。そして再び原稿書きの慎ましやかな世界に戻るのです。というわけで今後ともよろしくお願いします。

 

【追伸】

 ちなみに「TVer」という民放公式テレビポータルサイトで12月19日(火)20:56まで観られるみたいです。お見逃しになった方はこちらでぜひ。

tver.jp

 

『このマンガがすごい!2018』感想

 今年も参加しました。

このマンガがすごい! 2018

このマンガがすごい! 2018

 

   岩本先生おめでとうございます〜。

  作品紹介は私が担当いたしました。ちなみにこの原稿は正確なランキングがわからない状態で書かされておりますので、いま読むとなんとなく手探り感がありますね。まあ仕方ない。ほかには田中相先生の『LIMBO THE KING』の紹介も担当しております。 

LIMBO THE KING(1) (KCx)

LIMBO THE KING(1) (KCx)

 

  こちらもほんとおもしろいです。田中相先生のマンガエリートぶりが際立つ作品でもあります。未読の方はぜひ!

 

 今年のオンナ編も個人的には納得のランキングでありました。完結したビッグタイトルが順当にランクインしているのも好印象です。詳細はぜひお買い求めのうえ、ご確認くださいませ。

 

 岩本先生のインタビューで興味深かったのは、さいとうちほ先生が描くマンガを目標にしているという点です。あまりにも意外だったものでとても驚きましたが、しかし読めばなるほどという納得感しかなく、岩本先生のサービス精神に感服した次第であります。

 これは完全に私の妄想ですが、岩本先生には『町でうわさの天狗の子』の反省がたくさんあるんじゃないかと思うのです。

  『町でうわさの天狗の子』は現時点における岩本先生の最長連載作品であり、代表作であり、少女マンガの大傑作ではあるのですが、マンガ好きのあいだでは熱烈に迎え入れられたこの作品は、今のところアニメ化もドラマ化も映画化もなされておりません。

 私からすればお前ら(映像関係者)の目は節穴か!と思うわけですが、いまいち不特定多数のマジョリティにまでリーチできていなかったことは確かなのでありましょう。その原因を考え抜いた上での今、そしてさいとうちほ作品を意識して描いているという『マロニエ王国と七人の騎士』があるのではないかと思うのであります。

 キャラクターと世界観はますます愛おしく、その上でエンタメ感をぐいぐいと増しつつある岩本ナオ先生。ここ数年で、同時期に出てきたマンガ家さんの中でも、頭ひとつ抜け出た印象があります。伝え聞くところによると『マロニエ王国〜』は長く描く気満々であるようなので、今後もガンガン期待していきたいと思います。

鳥飼茜先生にインタビュー

 たまには仕事のことも書こうと思います。大大大好きな鳥飼茜先生にインタビューさせていただきました! 

www.cyzowoman.com

www.cyzowoman.com

  超かわいかったッス…。

  鳥飼先生には1作ごとに明確な狙いがあって、それはけっこうあちこちに飛んでいたりするのですけど、根っこの部分は一貫していて、どこからどう読んでも鳥飼茜作品に仕上がっているのが、本文中でも言及されている作家としての「地盤の固さ」なんだと思うのです。だから男性誌だろうが女性誌だろうが関係なくご活躍できるのでしょう。

  インタビューを始めるとき、私が名刺を渡した瞬間に、名前を見た鳥飼先生はハッとした表情を浮かべて、「ずっと前から私の作品を読んでくれてましたよね?」とおっしゃったんです。これはもう本当に嬉しかったですね。

  ブックレビューの目的の第一は本を買ってもらうことですが、第二には作家さんへの応援というか、世界中の99%の人間がその作品をつまらないと言ったとしても、面白いと思っている人間がここにいますよ!とお伝えしたい気持ちがあるんです。ちゃんと伝わっていたんだなあと不覚にも泣きそうになりましたよ。

  といった感じで泣きそうになりながらやり遂げたインタビュー、ぜひご一読くださいませ。

【続報】「パンビー」は「フランスの家庭では定番のお菓子」ではなかったようです。

 誰も気にしてなどいない謎のフランス菓子「パンビー」の出自ですが、前回のブログにはそれなりの反響がありまして、さらなる事実が明らかになりました!(空盛り上がり)

makotooda.hatenablog.com

 今回はそれらの新情報を簡潔にまとめておきたいと思います。

パンビーは「フランスの家庭では定番のお菓子」ではありません!

 とにかく在仏邦人の方、フランス在住経験のある方からは、「そんなものは知らない」というご意見を多数いただきました。

 私も知り合いをたどってさらに複数のフランス人の方に確認しましたが、やはり同様に「知らない」とのことでしたので、「フランスの家庭では定番のお菓子」というのは限りなくクロに近い情報であると判断してもよいでしょう。 それどころかフランスに「パンビー」というお菓子は存在すらしないようです。

「パンビー」のルーツとなったお菓子を発見?

 では「パンビー」とはなんなのか。前回のブログでは軽く触れる程度の扱いだった辻調の「パン・コンプレ」という名のパンビーにそっくりなお菓子が、なんとフランスに実在することが判明しました。こちらのフランス語のルセットをご覧ください。 

www.750g.com

 ルセットの作成者には「Recette par Maurice.B」とクレジットされております。これは辻調のこの文書にあったM.O.F保持者のMaurice Boguais氏のことでありましょう。説明文を要約すると「ビスキュイドサヴォアをパンのカンパーニュみたいに焼いてみたよ。中にはムースプラリネを詰めたよ。卵黄は2個だよ。クレームフレーシュは50gだよ。ナントで見つけたよ」といったところでしょうか。

 実際に配合を見てみると、750g.comでは約2倍量になっているものの、eau de fleur d'orangerやcrème fraîcheなどの入手しづらい材料がバニラエッセンスと生クリームで代用されていることを除けば、辻調のものとほとんど同じです。パンビーは「フランスの家庭では定番のお菓子」ではありませんでしたが、フランスに似たようなお菓子は存在したわけです。

 しかし微妙なのが750g.comにある説明文です。「ナントで見つけたよ」とあるのですが、「pain complet Nantes」等で検索しても、これ以外の情報はさっぱり見つかりません。実際に存在したとしても伝統菓子かどうかは微妙なところですし、相当にマニアックなお菓子だと思われます。

「パンビー」と「パン・コンプレ」のミッシングリンク

 ではパンビーとパン・コンプレは同じお菓子なのでしょうか。前回のブログで触れた藤野賢治シェフの「パン・ビー」と配合を比較してみますと、

 (1) 粉の一部にコーンスターチを使っていない。
 (2) ムースプラリネではなくクレームディプロマットを使っている。

  といった違いがあります。しかしこれは藤野シェフが意図的に変更した可能性も否定できません。なにしろともにカンパーニュに似せたと明言しておりますし、挙げ句のこのそっくりな外見です。Maurice Boguais氏のpain completを見た藤野シェフが日本人に作りやすいようアレンジしたお菓子がパン・ビーだった……そんなシナリオが浮かんできます。

 しかしこのミッシングリンクを埋める情報はまだありません。ここさえわかればすべて解決なのですが……。

なぜパンビーは「フランスの家庭では定番のお菓子」であるとされたのか?

 今回の調査により、パンビーのレシピは1980年代後半から2010年ごろに至るまで、断続的に書籍等で紹介されてきたことがわかりました。この本にも小黒きみえ先生のレシピが掲載されているようです。

たのしいティータイムブック

たのしいティータイムブック

 

 それが2015年ごろになって、誰がなにを勘違いしたのか、「パンビーはフランスの伝統菓子」「パンビーはフランスの家庭では定番のお菓子」だとする情報が出回って(もしかしたら本か雑誌かに書かれていたのかもしれません)、ネット内で増殖したのではないか? ……といったように現時点では予想しています。

 今年になってなぜ再流行し始めたのかもよくわかっていません。まあでもおいしそうなお菓子なので、レシピが広く知られるようになるのは結構なことだとは思うのですが、お菓子の歴史や文化的背景はしっかりと正確に記述してもらいたいところであります。ご協力いただいたみなさん、本当にありがとうございました! 現場からは以上です。

「パンビー」は本当に「フランスの家庭では定番のお菓子」なのか?

 大半の人にはどうでもいいことなのでしょうが、個人的にものすごくモヤモヤしたもので…。私の愛読誌である「オレンジページ」2017年11/2号の表紙に見慣れぬお菓子が掲載されていました。

 曰く「はじめまして、『パンビー』です」。パンビー…? 聞いたことないな。ページを繰ると特集のリードにはこうありました。

オレペ初登場のケーキ『パンビー』。まだまだ知らない人も多いかもしれませんが、フランスの家庭では定番のお菓子

 ほんとかよ!!!
www.instagram.com

理研究家もフランス人も知らない謎のフランス菓子「パンビー」

 フランスへの留学経験がある複数の料理研究家さんに尋ねてみたところ、全員が口を揃えて「知らない」と即答。そのうちのお一人は知り合いのフランス人に聞いてみたらしいのですが、「そんなお菓子聞いたことない」と言われたそうです(フランス語で)。
 大まかなところは「オレンジページ」の公式サイトにも書かれてはいますが(ここでも「フランスの家庭では昔から親しまれてきたスイーツなんです」との記述あり)、とりあえずは日本語で検索してみたところ、日本のネットではここ数年、パンビーが「フランスの伝統菓子」として広まっていることがわかりました。たとえば最近では「クックパッドニュース」が2017年5月にこんな記事でレシピを紹介しています。
 次にフランス語で検索。「オレンジページ」にあったフランス語表記は「pain bis」。しかしこれはフランス語で「種なしパン」を表す言葉です(失敬、Twitterでご指摘を受けて「ロベール仏和」で調べ直したら、pain bisは灰褐色の「ブラウンブレッド」のことでした)。案の定それらしきものはヒットしません。とある日本語のサイトには「panby」という綴りもありましたが、いかにもフランス語っぽくないスペルです。「pain-bis」「painbi」…いろいろ試してみましたが、なにも引っかかりませんでした。これは一体どういことなのでしょう?

フランス菓子に詳しい人間ならすぐにわかる「違和感」

 私がまず違和感を覚えたのがそのフォルム。2枚の生地のあいだにクリームを挟むというスタイルはいかにも日本的な洋菓子、例えばショートケーキやシュークリームなどを彷彿とさせます。もちろんフランスにもこのようなスタイルのお菓子はありますが(トロペジェンヌ、パリブレストなど)、フランス的かというと疑問符が付きます。フランスの伝統菓子と言えば、バターがたっぷり入った生地で作る焼き菓子か、タルトのヴァリエーションようなものが大半ではないでしょうか。


▲タルト・トロペジェンヌは「伝統菓子」というよりも、戦後にできた名物菓子です。こちらのお店が元祖。

 そしてその名前。フランス人が言うには「パンビーなんて名前、フランス人なら絶対につけないと思う」とのこと。私もそう思います。音がまったくフランス語っぽくないんですよね。英語ならまだ納得できるのですが…いかにも怪しい。

パンビーの元祖発見!?

 私は方々に手を尽くして情報を集めました。そして遂に1人のシェフにたどり着きました。かつて代々木上原や京橋で人気を博したフランス料理の名店「カストール」の藤野賢治シェフ。複数の方から藤野シェフの著書『はりきりうさぎさんのドキドキお菓子絵本』(鎌倉書房、1987)にパン・ビー(藤野シェフの表記では中黒が入るようです)のレシピが載っていたとの情報をいただいたのです。

 30年前の本であるにも関わらず未だに憶えていらっしゃった方が何人もいらっしゃったということは、読む者の心に残る素敵な本だったのでしょう。しかし残念ながらパン・ビーの由来などは書かれていないようです。
 さらにこちらのサイトにより、『シェフ・シリーズ 60号 カストール 藤野賢治シェフ 定番・料理と菓子 客が選んだ人気の味』(中央公論社、1994)という本にも、どうやらパン・ビーのレシピが掲載されいることがわかりました。前出の本よりかは本格的な内容のようなので、もしかしたら由来なども書かれているかもしれないのですが、残念ながら現物が見つかりません。

【追記】こちらの本にもパン・ビーのレシピが掲載されているようです。やはり藤野シェフで、初版は1988年。

 今のところこれより古い情報は掴めておりません。そしてもちろん「フランスの家庭では定番のお菓子」であることを示す情報もありません。藤野シェフは、フランスの料理やお菓子がまだ一般的でなかったころから、日本の家庭でも作りやすいようにルセットを工夫して、料理教室や雑誌・書籍で紹介してきた方です。藤野シェフのオリジナルレシピである可能性が高まってまいりましたが、しかし未だ決定打ではありません。

日本で広がった「パン・ビー」のルセット

 おそらく藤野シェフによって広く知られるようになったパン・ビーは、今はなき西八王子の名店「ア・ポワン」(1992〜2012)の定番メニューとしても人気を博していたようです。同店のシェフ・岡田吉之氏の著書『シンプルをきわめる』(柴田書店、2010)にもパン・ビー(岡田シェフもこの表記を採用)のレシピが載ってはいるのですが、やはり由来などへの言及はありませんでした。

ア・ポワン 岡田吉之のお菓子 シンプルをきわめる

ア・ポワン 岡田吉之のお菓子 シンプルをきわめる

 メレンゲの魔術師である岡田シェフのパン・ビーはさぞかしおいしかったことでしょう。食べられなかったのが悔やまれます。
 一方ではコーヒーの名店、堀口珈琲のカフェメニューにもパンビーはラインナップされていたようです。タイユバン・ロビュション出身のパティシエがレシピを持ち込んだとこちらの日記にありました。具体的に堀口珈琲がいつからパンビーを作り始めたかはわからないものの(社史によると独自のお菓子を作り始めたのは1996年から)、堀口珈琲の影響でしょうか、現在でもパンビーを提供する喫茶店は全国各地にあるようです。作りやすいですしね。
 なお、堀口珈琲のパンビーのレシピはこちらのGoogleブックスで見られます。出典は2009年刊行の堀口珈琲代表の著書『「極上の一杯」の淹れ方がわかる! おいしい珈琲のある生活』(PHP研究所)です。
 さらに関係性はまったく不明ですが、辻調には「パン・コンプレ」というパンビーにそっくりのお菓子が以前からあったようです。このテキストがいつ書かれたものかはわかりませんが、「10うん年前」に辻調のフランス校でなんとM.O.F保持者であるMaurice Boguais氏が実習で披露したとあります。ルセットを見ると、ビスキュイアラキュイエールにクレームディプロマットではなくイタリアンメレンゲベースのバタークリームを挟んだものになっています。うーん、どうなんでしょうか。ちなみにフランス語で「pain complet」というと、全粒粉のパンのことです。

イマジン…

 ここから先は私の想像ですが、ビスキュイアラキュイエールを家庭向けに簡略化したものは、もしかしたらフランスの家庭にもあったかもしれません。それを藤野シェフかどなたかが日本向けにショートケーキ/シュークリーム風にアレンジして「パン・ビー」と名付けたのではないでしょうか。だって全然フランスのお菓子っぽくないんですもの。
 間違っていたら申し訳ないのですが、実際に「フランスの伝統菓子」ならば、フランスのどの地方の伝統菓子なのか教えてほしいものです。パンビーが「フランスの家庭では定番のお菓子」って、本当なんでしょうか? 「オレンジページ」を責める意図はまったくなく、私は単に歴史的事実を知りたいだけなのです。引き続き情報求む!

さてさて、 今月の5月の#藤野貴子のお菓子教室 (5/25.27)はパン・ビーです。 ビスキュイ パンコンプレというパン カンパーニュな見た目のスポンジのような生地にシンプルにカスタードクリーム挟みます! こちらも、昔懐かし藤野賢治のお菓子と思い出の代々木上原時代のお菓子ですね。 型を使わないで、鉄板に直接、生地を盛り上げて焼き上げますよ〜 昔変わらずの素朴なお菓子です! 木曜19時、土曜15時ともに数名の生徒さん募集中です。 お問い合わせ 03-3409-1512 - #パンビー #fujinotakako #カストールラボラトリー #biscuit #cremediplomate スタイリングは#丸山かつよ

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▲こちらは藤野賢治先生の次女・貴子さんのInstagramより。お尋ねすればいちばん手っ取り早いのでしょうが(笑)。

『このマンガがすごい!2017』本日発売!

ものすごく久しぶりに書き込んでみたりします。おかげさまで元気です。

本日『このマンガがすごい!2017』が発売され、オンナ編の1位は岩本ナオ先生の『金の国 水の国』と発表されました。これはめでたい。

http://konomanga.jp/special/86741-2

私が推す作品が1位になったのは初めてのことです。特にここ数年は「まじか」という作品が1位になることも多く、毎年この季節はモヤモヤしていたものです。

金の国 水の国』の勝因は、書店員以外の票を確実に集めたことです。後半の専門家の投票先を見ると大半の方が『金の国 水の国』に入れていることがわかります。

1巻完結である点も大きかった。続きものだと「まあ来年まで様子見するか…」となることもありますが、1巻完結の場合はもう今年入れるしかないわけです。歴代の1位の作品を見ると、1巻完結のものも多いですよね。

http://konomanga.jp/special/86773-2

そしてなによりも作品そのものの圧倒的な素晴らしさですよ。この愛おしい世界、愛おしい人々を、できるだけ多くの方に知っていただきたいなと思います。

ダ・ヴィンチ」のBOOK OF THE YEARの「プロの本読み」編でも3作品挙げていますが、こちららまだ見本誌が届いていないので確認できておりません。というわけで今後ともよろしくお願いします。