女子マンガの手帖

女子マンガ研究家・小田真琴のブログです。主に素晴らしいマンガを褒め称えます。

はじめまして、小田真琴です。

はじめまして、小田真琴です。現在発売中の「FRaU」に、「いかにして『女子マンガ』は生まれたか?」という文章を書いています。



そもそも「少女マンガ」とはなんでしょうか。一所懸命に考えて、6つの条件を以前に私は導き出しました。

<1> 女性向けマンガ雑誌を主な活動拠点とする作家の作品であること。できればその作品の掲載誌も女性向けマンガ雑誌であることが望ましいが、拘泥するものではない。


<2> 24年組以降の作家の作品であること。このため、「少女マンガ」の原型を作り出した手塚治虫石森章太郎水野英子などの作品は除外される。


<3> 直接的、または間接的に24年組の影響を受けた作品であること。


<4> 恋だの愛だのを描いた作品であること。


<5> 登場人物が他者との関係性に配慮しつつ、自己の内面への深い洞察が見られる作品であること。


<6> ファッション、インテリア、雑貨、食に対する言及、配慮、執着が見られる作品であること。


「女子マンガ」には、さらにこのような条件が追加されます。

<7> 主人公や登場人物が、絶望を知りながら、それでもなお希望を抱いてしまうこと。


恋は永遠ではありませんし、9割9分の恋はいつか破れます。それでもなお恋してしまうこと、いつか「最高に素晴らしいこと」があるんじゃないかと願うこと。少女マンガのように「夢見る」のではなく、そうした「祈り」を、女子マンガは内含します。

ちなみに今回のFRaUでは、こんな作品を紹介しています。



岩本ナオ町でうわさの天狗の子』1〜4巻(小学館フラワーコミックス
正統派の学園モノ…かと思いきや、主人公が天狗の子どもという時点でそうとうおかしなお話です。天狗の血を継ぐものとして、本来ならばもっと修行に精進せねばならない主人公・刑部さんなのですが、学園生活に、三角関係に、今日も大忙しです。っていうか本当は瞬くんのことが好きなんでしょ!? 登場人物がみな本当にいい子ばかりで、読んでいて気持ちのいいマンガです。



よしながふみきのう何食べた?』1〜2巻(講談社モーニングKC)
主人公・筧史朗の見事な食材使い切りテクには爽快感すら覚えます。ジグソーパズルのピースがぴたりとはまる感じ。実はレシピもかなり使えます。



杉本亜未ファンタジウム』1 〜4巻(講談社アフタヌーンKC
天才的な手品の才能を持つ少年・長見良。難読症(発達性ディスレクシア)というハンディを抱えながらも、かつての師匠の孫・北條英明に導かれて、スターダムへの道を歩みます。作者自身、「絵がダサい!!」(1巻あとがきまんがより)と自虐的に語る本作ですが、その「ダサい」絵に騙されてこのマンガを読み逃すようであれば、あなたの人生はとてもソンをしています。闇の中でこそ輝く異形の才能、という図式は『アカギ』を彷彿とさせますが、こちらはやはり女子マンガ。本当に大切なことと、自分1人の力ではどうしようもないこと。儚くて美しい手品シーンが、このマンガの本質を雄弁に語ります。2巻のラストは落涙必至。



サラ・イネス誰も寝てはならぬ』1〜11巻(講談社モーニングKC)
なにかが起きそうで実はなにも起きないマンガが好きです。このマンガはその代表格。現在進行形ではデザイン事務所のぬるい日々を執拗に描写しつつ、時折挿入されるフラッシュバックでは、各キャラクターの過去に起きた“なにか”を描きます。その“なにか”とはすなはち色恋沙汰であり、仕事のあれこれであり、思春期の思い出であり……。こうした過去のエピソードが、現在をぬるぬると生きるキャラクターたちの生活に陰翳を与え、得も言われぬ面白さとリアリティを醸し出しています。



宇仁田ゆみうさぎドロップ』1〜6巻(祥伝社フィールヤングミックス
独身の30男が祖父の隠し子を育てる……という奇抜な設定ばかりが注目されがちな本作ですが、なかなかどうして、そこに描かれる大人の恋模様は見所満載です。ダイキチと、バツイチ美人・二谷さんの、“お互い好きなんだけどいろいろ事情があってそう簡単に はくっつけない”感が、本当に切なくてたまりません。



衿沢世衣子『シンプルノットローファー』(太田出版
壮大な情熱の無駄遣い。それこそが青春の本質です。なにかしたいのにするべきことがなくて、でも時間だけはたっぷりあって…という「モンナンカール女子学校」の日常を緩いグルーヴで、しかしウキウキと描いた秀作です。本当に大した事件も、胸キュンも、カタルシスもないけれど、恐ろしく清々しい読後感はこの作者ならではのものでしょう。女子校出身の友人曰く、「これこそが女子校!」だそうです。



東村アキコひまわりっ健一レジェンド〜』1〜11巻(講談社モーニングKC)
10年に1作の、ギャグマンガの傑作。ギャグマンガは1回1回のギャグのクオリティがすべて。行き詰まり、何人のギャグマンガ家が姿を消していったことでしょう。しかし東村アキコは違います。当初の父親の面白エピソード集から、職場のお笑いトリオ『信頼関係』のドタバタなどを経て、奇蹟のキャラクター・ウィング関先生が登場。何度でも甦る不死鳥ギャグマンガです。



小玉ユキ坂道のアポロン』1〜4巻(小学館フラワーコミックス
期待の作家・小玉ユキが初めての長編の舞台に選んだのは、1966年の長崎でした。 当初は洗練された小玉ユキの描線と、まだ“戦後”の香り漂う時代設定とのギャップ に戸惑ったものですが、『ああ、小玉ユキは学ランと携帯電話のない時代の恋を描きたかったの だな」と気づいてからは、もうドはまりです。めがね、マッチョ、そばかす、お嬢とキャラ設定もツボ押さえまくりで、複雑な三角・四角関係に身もだえすること請け合いです。



オノ・ナツメ『COPPERS』全2巻(講談社アフタヌーンKC
群像劇を描かせたら、今やオノ・ナツメの右に出る作家はいないか もしれません。『COPPERS』では『GENTE』よりもさらに濃密な、“行間”を読ませる人間模様がさらっと、だがしかし濃密に描かれます。ただのおしゃれマンガじゃないの?と敬遠している方がいたら、これを機会にぜひご一読を。私的上半期ベストマンガです。


今後とも宜しくお願いします。