女子マンガの手帖

女子マンガ研究家・小田真琴のブログです。主に素晴らしいマンガを褒め称えます。

「SPUR」2月号 新連載「マンガの中の私たち」第1回とクリスマスケーキ

「SPUR」で新連載が始まりました。旧連載「マンガの中の◯◯男子図鑑」では「男子」に焦点を当ててマンガを紹介してきたのですが、新連載「マンガの中の私たち」では「女子」を軸にマンガを紹介していきたいと考えています。引き続きご贔屓に。


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第1回のテーマは池辺葵先生の新刊『どぶがわ』です。



どぶがわ (A.L.C.DX)

どぶがわ (A.L.C.DX)


これは本当にすごいマンガです。11月発売の本作は、雑誌や『このマンガがすごい!』などの主なランキングものには惜しくも間に合わなかったのですが、ワタクシ的には今年のベストです。

谷底の臭気漂うどぶがわのほとりに安息の場所を見出した老婆の清貧な日常と、彼女が見る白日夢が本作の主な舞台。白日夢の中の彼女は瀟洒な洋館に住む四人姉妹の長女で、料理上手の家政婦が作るフォアグラのソテーが大好物。しかし一方現実の彼女ときたら、夜ご飯はもやしと豆腐のみ…。

この残酷な描写を池辺先生はその愛らしくも美しい絵でやるものですからたまりません。ほかにもたとえばP75、空想の中の家政婦との出会いのシーンで、浮浪児同然の彼女がもたれかかる大きな箱には、ローマ字で「NAMAGOMI」と書かれています。さりげなくすごいシーンです。

交差する現実と虚構。空想に挿し込まれる現実(カリフォルニア州のフォアグラ禁止法...etc.)。ドライヤーで髪を乾かす一方で、騎士が馬に乗って街中のアスファルトの道を走り、人々はレコードで音楽を聞きます。

光と水のイメージもとても印象的です。太陽の温かな光とヘンデルの「水上の音楽」。五感を刺激する描写はもちろん嗅覚にも鋭く迫ります。ラストシーン、四姉妹が草むらに横たわりにおいに関して語り合うシーンは、老婆の最期が草むらの上であったことを暗示しているのではないでしょうか。

なんという豊かなマンガ世界でしょう。池辺先生は作家としてまたひとつ上のステージに上がって行ったようです。あまりにも素晴らしいので今週金曜日発売の「婦人画報」でも紹介していますが、それはまたのちほど…。

作中に登場するこちらの小説もぜひご併読ください。


バベットの晩餐会 (ちくま文庫)

バベットの晩餐会 (ちくま文庫)


余談ですが今年のクリスマスケーキはオーボンヴュータンにいたしました。ホワイトチョコのデコレーションがとても美しいのです。



ではでは。